『ゴダール・ソシアリスム』を見る 山田宏一(映画評論家)さん

ゴダール・ソシアリス
http://www.bowjapan.com/socialisme/ 2010/12/18公開



ゴダールにはもうお手上げ、何もかもちんぷんかんぷん、判断停止をきめこんで睡魔とのたたかいを覚悟しつつ試写室へ。
ところが、音響効果のあまりのすさまじさに眠るどころじゃない。まさに「ゴダールゴダールだ」ということか。新作の『ゴダール・ソシアリスム』の音響は尋常ならず、たぶんゴダールがものすごく怒っているらしいことだけはわかった――などとも言えませんが、感じられました。何を怒っているのかはよくわからないので――などと言ったとたんに怒りの鉄拳ならぬ怒声が飛んできそうです! 画面せましとばかりに右に左にフレームアウトして怒鳴り散らしているような印象をうけます。『彼女について私が知っているニ、三の事柄』(1966)のころのボソボソと低い声でつぶやくような、ささやくようなナレーションは難解ながら詩情のようなものが感じられたものです。現代詩を暗く静かに朗読するような味わいがあったと思います。
ゴダール・ソシアリスム』は全篇これ響きと怒りの罵声を浴びせるかのごとし。
かつてヌーヴェル・ヴァーグ(新しい波)の三銃士とみなされて戦後の映画史の流れを変革したクロード・シャブロルフランソワ・トリュフォージャン=リュック・ゴダール、それにジャック・リヴェットエリック・ロメールを加えた五人組のうち、すでにフランソワ・トリュフォー1984年に52歳で、エリック・ロメールは今年、2010年のはじめに89歳で、クロード・シャブロルもついこのあいだ、(2010年)9月12日に80歳で亡くなりました。ジャック・リヴェットは82歳で、ゴダールは80歳で、健在です。リヴェットは昨年、東京国際映画祭に出品された新作(そのあとまたもう1本撮ったようですが)を見たところでは、かなり力がなくなっているような印象を受けましたが、『ゴダール・ソシアリスム』を見るかぎり、ゴダールは まだまだ死にそうにありません。100歳をこえてなおかくしゃくたるポルトガルマノエル・デ・オリヴェイラ監督(『ブロンド少女は過激に美しく』)の悠々自適の静かさとは まったく対照的に、といっても、その野蛮な若々しさという点では共通しているのですが、年齢とかかわりなく怒り狂っている感じ。こんな映画が一般公開されるとは!
「現在の東京は、ニューヨーク以上に豊かで多様な作品の見られる映画都市だ」と蓮實重彦氏は書いています(「随想」、新潮社)。「ジャン=リュック・ゴダールの『アワーミュージック』(04)、アレクサンドル・ソクーロフ監督の『チェチェンへ――アレクサンドラの旅』(07)、ペドロ・コスタ監督の『コロッサル・ユース』(06)のように、アメリカ合衆国はいうにおよばず、ヨーロッパのほとんどの国でさえ、映画祭などの特殊なケースをのぞいて上映される機会の稀な作品が日本では一般公開されているのだから」と。