シナリオ出版拒否事件 山田宏一(映画評論家)さん

じつに腹立たしい――というのも、「脚本出版拒否の絲山秋子氏勝訴 原作者の権利認める」という見出しで、こんな記事が朝日新聞に載っていたのです。

脚本家の荒井晴彦さんとシナリオ作家協会芥川賞作家の絲山(いとやま)秋子さんを相手取り、絲山さんの小説を原作にした映画脚本の書籍への掲載などを求めた訴訟で、東京地裁は〔9月〕10日、請求を棄却する判決を言い渡した。岡本岳裁判長は、脚本の著作権は脚本家だけでなく原作者にもあり、出版を拒む権利があると判断した。

とここまで読んで、「だって原作料をもらって、脚本化権、映画化権を譲ったんでしょう」と思わずにいられませんでした。手塩にかけて栽培した野菜を売って料理されて、その料理のしかたを料理本に発表されるのは困ると拒んで、その権利が認められたような感じ。(adaptationをcookingにたとえては失礼かもしれませんが!)

問題の作品は2005年公開の映画「やわらかい生活」(寺島しのぶ主演)の脚本。原作は絲山さんの「イッツ・オンリー・トーク」で、07年にDVDになった。脚本は同協会発行のシナリオ集に収録予定だったが、絲山さんが「脚本は活字として残したくない」と掲載を拒んだため、荒井さんが提訴した。

え? 原作者は他人の書いた脚本の権利まで主張できるのか?と思いきや――

判決は、映画、DVD化は原作の著作権を管理する出版社と映画プロダクション会社との間で結ばれた契約に基づき実現したと指摘。荒井さんらは契約当事者ではないため、契約を根拠に書籍への掲載を求めることはできないと結論づけた。

とのことなのです。あたかも調理師は食材というか、原材料の売買契約にかかわっていなければ、それをもとに作った料理をテレビなどで公けに披露してはならないという判決のようにも聞こえます。というような拙劣な比喩は別にしても、映画をごくあたりまえに差別している連中に映画を裁かれているような屈辱感をおぼえます。