高崎俊夫(編集者)さん 虫明亜呂無『紅茶とヒース』乞うご期待

虫明亜呂無の<スポーツと恋愛>をモチーフにした短編集『紅茶とヒース』(清流出版)がもうすぐ完成します。昨年、同じ版元から刊行した『女の足指と電話機――回想の女優たち』『仮面の女と愛の輪廻』で虫明さん独特のロマンティシズムの芳香に満ちたエッセイの魅力を知った方も多いと思いますが、その早過ぎた晩年に虫明さんが最も力を傾注していたのは小説でした。
生前には、直木賞候補にもなった短編集『シャガールの馬』だけが刊行されましたが、小説家としての才能が遺憾なく発揮されているという点では、単行本未収録の作品を精選した本書も決してひけをとりません。とくに天才ランナー人見絹江をその内面から浮き彫りにした『紅茶とヒース』、悲劇の天才投手沢村栄治の生涯を妻の視点から描いた『風よりつらき』は、田中英光の『オリンポスの果実』以来、途絶えてしまった日本のスポーツ文学の歴史にとって新たな曙光ともいえる名品です。