清水節(編集者/映画評論家)さん 理不尽に思うことごと

近頃、理不尽なことが多すぎる。
『カラフル』と『オカンの嫁入り』のTVスポットに愕然とした。わずか15秒の中に、映画の頭から1時間を経なければわからないような事実まで盛り込んでいる。これはイメージやインフォメーションの提供ではなく、ストーリーの核心部分の事前漏洩だ。ここまで伝えなければ、人々は映画館に来てくれないという計算があるのだろう。本当にそうなのか。そこまで媚びなければならないのか。その核心部分を知りたくなかった人々が、何気なくCMを見てしまった場合の憤りは無視されていいのか。今一度、再考すべきだと思う。
媚びるといえば、『BECK』だ。マンガだからこそ表現可能だった“天性の歌声”。その演出に唖然としたのは僕だけではないだろう。監督以下スタッフは、実験的手法と考えたのかもしれないが、堤幸彦には“前科”がある。原作マンガのコマ割り完コピを目指した『20世紀少年』三部作を経て、原作ファンへの配慮を優先しすぎた映画史上最低最悪の演出といっても過言じゃない。
バイオハザードIV』完成披露試写は解せない。公開日までブログ、ツイッター等において、「紹介」はいいが「批評」は禁止と申し渡され、誓約書にサインさせられた。しかし先行ロードショーで見た一般客は、次々と感想を書き込んでいる。後でわかったのだが、サインさせられたのは完成披露へ行ったマスコミ全員ではなかったという。つまり入場の際、危険分子を選別し、興行に影響のありそうな言論の封殺を目的としていたとしか考えられない。 映画会社と媒体の約束で、批評の掲載を遅らせる措置はあるかもしれない。しかし、ツイッターやブログという個人の表現の自由へ踏み込んだことが驚きである。誓約通り「批評」はせず、この処遇についてのみツイッターに書き込んでみたところ、映画会社に対する批判的な声をたくさん戴いた。マスコミ試写というものが、「どうぞご覧下さい」「拝見させて戴きます」という両者の関係性から逸脱し、「事前に見せてやるので、好意的評価を抱けない場合は黙っててほしい。それでも見たければサインしなさい」という主旨で行われるのは、個人の尊厳をも踏みにじる行為だ。どうしても悪評を封じ込めたいのなら、少なくとも事前に試写状にその主旨を入れるなどの配慮が必要だろう。ではなぜ、サインしてしまったのかと問われるかもしれない。それはもちろん、理不尽な被差別の中に身を置いて、悪しきやり口を批判したかったからに他ならない。さて、知る人ぞ知るガチンコの全米映画批評サイトRottenTomatoesでは、公開直後に13〜15%しかFresh評を獲得できなかった本作。米国では3203館で封切られ初日興収1000万ドル超、日本では先行上映を含み5日間累計で興収13億円超。事前批評を封殺した戦略はひとまず成功したようだ。ネット上でのクチコミの威力を逆説的に証明するこの一件、皆さんはどう思われますか? 今後もし、こうした宣伝方針に基づく作品の試写状を切られたら、この場でまた報告するとしよう。そのときはシネグラの〈れがあるF〉さんにお願いして、公開後に劇場で見てから書く例外をお許し戴くとするか(笑)。