清水節(編集者/映画評論家)さんから、今野雄二さんのこと、「悪人」のこと

 亡くなった今野雄二さんとは、10年ほど前に少しだけ仕事をご一緒させて戴いた。今野さんのMCによるCSの映画情報番組の構成台本を、僕が担当していたのだ。毎回2〜3人のゲストを招き、映画音楽、衣裳などをテーマに数回収録しただけのお付き合い。物腰は柔らかく謙虚な方だったが、ゲストの人選の際、番組Pや僕が提案した何人かに対しては、きっぱりと否定なさったことが印象深い。70年代にあれだけ電波に露出していたのだから、メインストリームを邁進するいくつもの誘いはあったであろう。評論家を名乗りながらバラエティ番組のタレントとしてメディアの海を泳ぐ見苦しい輩も存在するが、そんな馬鹿げた世界には距離を置くスタンスに独自のポリシーを感じさせ、陰ながら共鳴していた。理由は何であれ、今野さんの最期の選択が突きつけるものは実に重い。謹んでご冥福をお祈りします。


 すこぶる評判のいい『悪人』を見た。『告白』同様に、2010年現在の日本映画として重要であることには深く同意するし、このキャスティングによってメジャーが送り出したという事実にも拍手を送りたい。だがしかし、僕は本作に多大な疑問がある。傑作になる可能性を秘めていたのに、なんということをしてくれたのかという不満がある。問題は、脚本と演出だ。この映画を絶賛だけで塗り固めてはいけない。