ヒッチコックの3D版“ダイヤルM”を探せ! 高村英次(映画ライター)さん

ダイヤルMを廻せ! 特別版 [DVD]

ダイヤルMを廻せ!』・・・毎回見ながら、つくづくヒッチコック作品ぽくないなぁと思うのですが(もっともソコが好きな点でもあるんですが)、
「(舞台を映画にする時は)物語を拡げて映画的にするのはもってのほかだ」とか、
「ヒットの要素である――その(芝居の)構成を変えては、すべてが台無しだ」。
ゆえに「ただ撮ればいんだ」とヒッチコックが言って撮ったように、極めて舞台劇的なのは当然であります(これらコメントは『ダイヤルMを廻せ!』DVDの映像特典「ヒッチコックとダイヤルM」より)。
まぁ、そういう事でしょうが、再見するとこれまた凄いんですね。何が凄いって、コレ、3D仕様で製作されたでしょ。だからレイ・ミランドグレース・ケリーのマンションの豪華な一室にほぼ舞台を限定して撮っているんですけど、ニコラス・レイみたいにやや斜めの俯瞰アングルから左右に動く人物を(移動撮影&パン)でブンブン追っかける。
僕は見ていて、それだけの事か、と思っていたら、これまた付録の映像特典「立体的歴史」の中で、ヒッチコックは3D(スリー・ディーではなく、サード・ディメンション)=立体感の効果が活きるように室内で人物を左右、または前景と後景とに分けて動かして演出した、と指摘されていて、斜め俯瞰ではなく、通常のカメポジ(カメラを地上に置いたポジション)でのパン&移動撮影の時に、人物が動くとランプシェードを前景に映り込ませてグルッとそれを回り込むようにして後景の人物を追う・・・これを立体映像で見ると、このランプシェードが手前にグワァァ〜〜〜ンと大きく出張ってくる・・・立体的に見えてくるのです。つまり、そうなるようにワザとしているんです。これにはマイッタ。
よく『ダイヤルMを廻せ!』の3D効果を狙った映像というと、襲われるケリーがハサミを取ろうとして机の上でジタバタする時に、手を観客に向かってグイッと伸ばす・・・あそこをよく指摘されますが、実は考えてもいないような場面でチョコチョコと3D演出をやっているんです。
そうした細部は、3Dで見ないと判らない・・・。
だからソレが今、無性に見たいのです!